脳の生物学的な性質を味方に付けた学習法とその環境

ここでは、脳の生物学的な性質を知った上で、それをうまく使って学習する方法をいくつか紹介します。

先に、脳の情報の選別は、生きるために必要な情報かどうかが基準となっていると言いました。

しかしながら、学校の勉強の知識は、大自然の中で生命を危機から守るための情報とはまったく異なるので、海馬で捨てられてしまいます。

つまり、脳に記憶をさせるためには、どんな手を使ってでも「海馬」という関門を突破しなければなりません。本来、生存の危機には何の役にも立たない情報を、「重要だ!」と海馬に勘違いさせなければいけないわけです。

最も簡単に、しかも確実に海馬を勘違いさせる方法は、何度も繰り返して同じ情報を海馬に送り込むことです。つまり「復習」です。しかし、復習するタイミングが重要です。というのも、海馬に情報がとどまれる期間は、最長一ヶ月だからです。海馬は一ヶ月かけて情報を吟味し、じっくりと選別しているわけです。

ですから、この一ヶ月間に繰り返し復習すれば、海馬は「こんなに何度も送られてくる情報はきっと重要なのだ!」と勘違いしてくれます。

さらに、手で書いたり、声に出したりして、できる限り五感を刺激しましょう。

海馬の性質からすると、効率的な復習のスケジュールは、学習した翌日に一回目、一週間後に二回目、二回目の復習から二週間後に三回目、最後に三回目の復習から一ヶ月後に四回目がベストです。この四回の復習を少しずつ時間間隔を広げながら二ヶ月かけて行います。

これが、海馬にその情報を必要と判断させるコツです。そして、これだけやれば問題ありません。必要以上にやっても成果はあまり変わりません。不必要な復習に時間を割くくらいなら、他の勉強に使いましょう。

夜更かしや徹夜の勉強ほど、無意味なものはありません。必要にかられてやむなくやってしまうこともあるでしょうが、「睡眠」が学習にとっていかに大切かを説明しましょう。

新しい知識などを身につけるためには、覚えたその日のうちに「6時間以上眠る」ことが必要です。

一睡もせず詰め込んだ知識は、海馬にあっさりと捨てられて、数日のうちに脳から消えてしまいます。

記憶は脳に長くとどまってこそ意味のあるものとなります。「学習の転移」や「精緻化」も、記憶が長期的に脳に蓄えられなければ、全く効果が現れません。

勉強の成果を無駄にしないためには、なるべく睡眠時間を削らずに済むような計画的な学習をする必要があります。

睡眠をとらないと、海馬は情報をあっさりと捨ててしまいます。その理由は、実は「夢」にあります。夢を見ているときに海馬は活発に活動しています。夢は一種の「記憶の再生」です。海馬の情報や、大脳皮質の記憶が夢の中再現されるのです。夢を見ることとは、脳にある情報や記憶の断片を、つなぎ合わせて試行錯誤をする行為でもあるのです。

人は一晩の間に大量の夢を見ます。脳は睡眠中に様々な形で過去の記憶や情報の組み合わせを行い、整理しています。寝ないということは、海馬に情報を整える時間を与えないことになります。整理整頓できない情報は不要と判断し、即座に捨ててしまいます。

つまり、睡眠は、ものごとをしっかりと記憶する上で、とても大切な行為であると言えます。

海馬は、刺激を受け続けると活性化することが、実験結果によりわかっています。よって、学習においては先に述べた復習がいかに大切かについて、さらに理解を深めて頂けたと思います。復習は学習の鉄則なのです。

また、海馬の近くには「扁桃体」と呼ばれる喜怒哀楽を司る部位があります。この部位が活発に活動している時、つまり喜怒哀楽が激しい時、記憶されやすいこともわかっています。扁桃体が記憶を促進する現象は、動物にとって生存そのものに関わる深い意味があります。恐怖を感じたとき、脳はその恐怖を記憶して、次に同じような状況になったときに効率良く危険を回避させる必要があります。それは動物の生死を分ける重大な問題だからです。

生き残るための作戦こそが、感情による記憶の促進につながっています。これがあるから、動物は危険な思いをした経験をしっかりと記憶しているのです。

だから、人間も感情に絡むものごとを強く覚えようとするのです。しかし、学習において現実に命の危険を伴う様なやり方はお薦め出来ません。いくら記憶のためとはいえ、トラウマになる可能性のある様な行為は逆効果を生み出しかねません。

適度の危機感を常に持ち続ける方法は、学習の様々な状況に応用できます。

学習するとき、「空腹」状態の方が、脳の記憶力は上昇します。なぜなら、「空腹」は動物にとっては危機の状態だからです。よって、学習するときは、満腹状態だけは避けて下さい。

「室温」に関して言えば、少し低めの方が学習効率は高まります。なぜなら、動物は寒さに危機感を感じます。夏ならクーラーのよく効いた部屋で、冬は暖房をあまり強くしない方がいいです。

このように、生命の危機感を利用した学習方法は、長い進化の過程で培われた性質を使っているので、とても強力で有効な方法です。学生の皆さんも、この様な方法を独自に工夫して、様々なケースに応用してみてください。

ただし、現実的に生命の危機を及ぼすようなことは絶対にやめて下さい。あくまでも、「適度な」危機感であることを忘れずに。

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この記事を書いた人

偏差値50から慶応大学に現役合格した効率のよい学習法をお伝えします!

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