誰でも天才になれる記憶法 - 「方法記憶」について

これまで、「知識記憶」の欠点と、それに対する「経験記憶」の利点を説明してきましたが、実はもう一つ大切な種類の記憶があります。

それが、「方法記憶」と呼ばれるものです。

知識記憶も経験記憶も、一般に「頭で覚える記憶」と位置づけられています。これに対して、「方法記憶」とは「体で覚える記憶」と呼ばれています。

例えば、自転車の乗り方、箸の使い方などがそれにあたります。体が覚えているので、これは体が記憶していると思われがちですが、実はそうではなく実際は脳が記憶していることなのです。この「方法記憶」とは、ものごとの「やり方」、つまり「方法」を覚える記憶といえます。よって、「方法記憶」と呼ばれているのです。

「方法記憶」の特徴は二つあります。

一つ目は、無意識なされる記憶であることです。先ほど例に挙げました自転車の乗り方は、何度が練習しているうちに自然と身に付きます。それが、体で覚える記憶と言われるゆえんです。

二つ目は、この記憶は忘れにくくて根強いことです。ばば抜きゲームのルールなどは、長いブランクがあっても、必要に応じて自然と思い出すことが出来ます。

上述した二つの性質のから、「方法記憶」は別名「魔法の記憶」とも呼ばれます。よって、この「魔法の記憶」である「方法記憶」を学習に使わない手はありません。

先に、「学習の転移」について説明しました。軽く復習すると、ある分野を極めることが出来ると、他の分野の理解も簡単になるという現象のことです。実は、これは「方法記憶」を使った相互作用の効果なのです。つまり、ある分野の「理解の仕方=理解の方法」を覚えれば、その方法記憶を使って他の分野の理解を深めることができるということなのです。

方法記憶では、覚えることも思い出すことも無意識です。知識や情報は意識的に記憶されますが、ものごとの「理解の仕方=理解の方法」は無意識に記憶されているのです。意志とは無関係に、方法記憶はどんなときでも勝手に活動しているのです。これは無意識の領域です。よって、方法記憶の効果は、思いがけない場面で強力に示されます。

昨今、藤井聡太二冠や羽生善治永世七冠の影響で、将棋界にブームが巻き起こっています。将棋は、日本の伝統文化として位置づけられていますが、れっきとした頭脳スポーツです。1手指すと、その先には何と10の230乗という数の指し手が生まれます。まさに、天文学的な読みの戦い。天才の中の天才しかプロ棋士になることができない、非常に厳しい世界です。将棋の棋士は、対局が終わると、対局注の盤面を完全に再現することが出来ます。素人から見ると、まさに超人的な記憶力の持ち主だと感じることでしょう。しかし、彼らは二つの記憶を併用しています。ある局面で、自分が何を考えてどう指したかという「経験知識」と、対局中に出現する可能性がある多くの戦法(プロ棋士は小さい時からこの戦法を、四六時中、盤の上に並べて、玉を詰ませる方法を研究している)という

「方法記憶」の両方を同時に使っているのです。つまり、無意識のうちに棋譜を分類して、その「法則性」をつかみ取っているのです。この様な天才的な能力も、この「方法記憶」が根底になっています。天才を生み出す正体は、実はこの「方法記憶」だったのです。

要するに、知識記憶は、覚えたその範囲にしか役に立たないのですが、一方の「方法記憶」は、その理論が根底にあるものごとすべてに応用出来るものということです。「方法記憶」は膨らむ記憶なのです。だから、覚える量は少なくて済みます。しかも、忘れにくく強固な記憶です。

学習で言えば、公式そのものよりも公式の解き方(方法記憶)を覚えた方が、その公式を応用する能力が飛躍的に上昇します。なぜなら、公式の原理を理解しているからです。一般的に、考えもなく公式を丸暗記している人ほど、公式を利用して問題を解くのが下手です。それでは、その公式は何の武器にもならないわけです。覚えている知識をいかに活用するかという、その方法を記憶することが非常に重要なのです。学年が上がるにつれ扱う知識量もどんどん増えていきます。少ない記憶量で大きな成果を出せる様な勉強法に切り替えない限り、成績に陰りが出てくるのは当然の帰結であると言えるでしょう。

先に、「天才は方法記憶がつくる」と言いましたが、方法記憶を使って要領よく記憶しているだけです。天才たちは、実際には天才でも何でもありません。個々の脳の神経細胞の性質は、だれの脳のものであっても全く差がないのです。まさに、「脳は使い方(方法記憶)次第」なのです。学生の皆さんも、知識記憶に時間を浪費するくらいなら、方法記憶にその労力を費やすべきです。

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この記事を書いた人

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