
「経験記憶」を利用した方法として次に様なものがあります。
同じ参考書を繰り返し勉強している人は、テスト中に「あ、これは第○章の△ページに書いてあった」などという思い出し方をしたり、時には、参考書とはまったく関係なく、普段勉強しながら飲んでいたコーヒーカップの絵柄がふと頭に浮かんで、「あの時、覚えた内容だ」と思い出すことがあります。
純粋な知識記憶でも、何かに関連づけて覚えれば、それは「経験知識」に近づきます。この様に、ものごとの内容を連合させて、より豊かにすることを脳科学者は「精緻化(せいちか)」と呼びます。
この「精緻化」で、ものごとを理解し連合させると、それだけ思い出しやすくなり、有用な記憶となります。よって、単一のことを記憶するときでも、できるだけ多くのことを連合させた方が良い、ということになります。連合させるほど、思い出しやすくなります。
上述した「記憶の精緻化」の例として、語呂合わせというのがあります。実は、この語呂合わせは脳科学的にも非常に効率の良い、脳にとってきわめて負担の少ない能率的な暗記法です。語呂合わせを使って覚えるときに、音声のリズムだけでなく、言葉の意味している内容を「想像」することが重要です。
そうすれば、記憶はさらに精緻化されて補強されます。多少時間がかかっても、語呂合わせを自分で作るのがベストです。
なぜなら、語呂合わせの意味している状況を、個人的な経験などを盛りこんで具体的にイメージしやすく出来るからです。簡単に思い出せるし、イメージを思い出せば思い出すほど、記憶に強く残ります。
これは、語呂合わせを使わない記憶にも有効です。ただ知識や情報を連合させるだけでなく、上述したように自分自身の経験を結び付け、想像を限りなく働かせて、知識をより豊かにして関連づけるのです。
自分自身の経験が記憶に関連していれば、それは完全に「経験記憶」となるからです。
また、覚えたい情報を、友達や家族に説明してみることも、経験記憶を利用した方法です。
まず、説明している自分の声が、自分の耳にも入ってくることも利点です。耳を使った学習は、目だけを使った学習よりも効率が高いことがわかっているからです、また聞いている誰かが例えば質問などしてきた時などは、自分で考え、わかりやすく教えなければならないわけです。誰かに説明をするというのは、自分がしっかり理解していなければ出来ることではありません。人に説明することで、自分が本当に「理解」しているかどうかを確認できてしまうわけです。
その一方、経験知識は次第に知識記憶に置き換わってしまうことです。長く放置しておくとせっかくの経験知識も、いずれは体験が削ぎ落とされて、いつしか知識記憶になってしまいます。どんな知識でも、初めは何らかの経験のもとに蓄えられたはずですが、時間の経過とともに、経験記憶はエッセンスのみが残って知識記憶となってしまいます。そこは注意が必要です。
ど忘れしては行けない知識などは、時折人に説明してみるなど、経験知識としていつまでも保存するための努力を忘れてはいけません。